ワーキングメモリとは何か? 〜記憶の役割×発達障害×支援方法〜

記憶の困難

発達の困難を抱える子の中には、

 ▶︎ 「片付けが苦手」
 ▶︎ 「計画的に物事を進めることが苦手」
 ▶︎ 「料理は得意じゃない」

という行動が見られる人がいます。

このような、行動が見られる子には「ワーキングメモリ」と呼ばれる記憶の力に課題があるかもしれません。今回は、この「ワーキングメモリ」について紹介していきます。

ワーキングメモリとは?

ワーキングメモリとは、「作業をする時に、必要な情報を一時的に頭の中に覚えておく力」と言われます。

例えば、仕事中に人は様々なことを考えています。

「そう言えば昨日の件まだ、課長に報告してなかった・・・」
「打ち合わせは10時からだから、5分前には会議室に行かないと・・・」
「明後日の会議の資料は今日中に完成させたいな・・・」

ワーキングメモリは、この頭の中にある複数の仕事を進める上で大切な力です。また、片付けや料理などの家事でも、複数のことを同時に考えて処理する必要があるので、ワーキングメモリが必要とされます。

このように、仕事や日常生活でワーキングメモリは大きな影響を及ぼしています。

ワーキングメモリの役割

もう少し詳しく言えば、

 ▶︎ 記憶を一時的に覚えておく
 ▶︎ 優先順位をつける
 ▶︎ いらない情報は忘れる

という3つの力をワーキングメモリと呼びます。一時的に覚えておくと同時に、優先順位を決めて、不必要な情報を忘れる、という処理を行います。

そのため、ワーキングメモリの高い人は、切り替えが早く、重要な仕事に集中して取り組む力が高いと言えます。また実際に「仕事ができる人=ワーキングメモリが高い」という研究も多く存在します。

ワーキングメモリが低いと・・・

反対に、ワーキングメモリが低いとどうなるでしょうか?例えば、一時的に脳の中に記憶を留めておく量が少ないと、

 ▶︎ 上司から言われた指示を忘れてしまう
 ▶︎ モノを片付けた場所を思い出せず紛失してしまう
 ▶︎ 出かける時に、必要なモノを思い出せず忘れ物をしてしまう

などの行動として現れます。

また、「優先順位をつける」という力が弱いと、何が大切なのか決めるのに時間がかかります。その結果、

 ▶︎ 色々と仕事に手を出すが、大切な仕事をすっかり忘れていた

などの行動として現れることがあります。

その他にも「いらない情報を忘れる」というワーキングメモリの力が弱いと色々な情報が思い浮かんでしまい、

 ▶︎ あれもこれもやらなきゃ!と注意散漫になる

という行動にも現れます。

ワーキングメモリが低いことの弊害は相対的なモノ

上記の話を聞くと「ワーキングメモリが低いと大変・・・」と思ってしまうかもしれません。しかし、あくまでワーキングメモリは相対的なものですので、もし平均100のところ、110のワーキングメモリの力をもつ人でも、周囲の人が130ならば、相対的に低いため迷惑をかける可能性もありますし、逆もまたしかりです。

また、仕事の成果はワーキングメモリだけで決まるものではありません。本人の取り組みや、周囲のサポートも大切になりますので、あくまで目安として考えるのが良いでしょう。

とは言え、実際ワーキングメモリが低くて困っている人もいます。例えば、発達障害の一種であるADHDを抱えている人は、ワーキングメモリを司っている脳機能が低下していることでADHD症状が出ていると知られています。

このようなケースでは、ワーキングメモリの低さを補う支援方法を具体的に抑えておくことで、困り感を減らすことができます。

支援方法 〜本人の意識〜

まずは、ワーキングメモリが低いことで困り感がある人は、自分なりに仕事や家事を行うライフハックを考えましょう。その一例として「ワーキングメモリの機能をどう外部化するか?」を考えることが大切になります。

具体的には、「記憶を一時的に覚えておく・優先順位をつける・いらない情報は忘れる」という3つのワーキングメモリの役割を外部化すると、

 ▶︎ 記憶を一時的に覚えておく → メモ帳にやることを必ずメモをする
 ▶︎ 優先順位をつける     → やることに優先順位をつける
 ▶︎ いらない情報は忘れる   → やらないことを決めて、メモ帳から削除する

のように1つずつ分割して作業することで、ワーキングメモリが低さを補うことができます。

ワーキングメモリは、低くても他に補う方法が多いことも知られています。近年では、スマホの登場でワーキングメモリの外部化を容易にするアプリなども多数出ていますので、自分にあった方法を見つけていくことが重要になります。

支援方法 〜周りの人の関わり〜

本人の努力だけで全ての解決は難しいので、周囲の人のサポートや、働きやすい(家事をしやすい)環境を整えることは重要になります。これも色々ありますが、1つは「覚えるまで一緒にやる」というサポートは大切です。

例えば、人は不慣れなことは迷うことも多いので、ワーキングメモリが低い人にはスムーズに行うことが難しくなります。よって、慣れるまでは他の人と一緒にやることは大切です。

体で覚えてしまえば、ワーキングメモリを使わなくても行動できます。

  • 片付けの手順と場所を覚えるまで子どもと一緒に片付ける
  • 事務作業の進め方を一緒に進めるようにする

少し大変ですが、覚えてしまえばスムーズに動くことができますので、後々のことを考えた最初のサポートが重要になります。

また、「静かに・1つずつ伝える」という意識も大切です。多くの情報を伝えると、記憶の容量が限界となり思考停止してしまうことがあります。

そこで、

 ▶︎ 余計な情報を入れないように最低限の内容だけ伝える
 ▶︎ メモを必ず出させる
 ▶︎ 1つずつ伝えて、メモを書かせる

のように、情報を制限して少しずつ伝えることが重要になります。せっかちな人には大変かもしれませんが、少しの手間で多くのミスが減るので、大切なサポートです。

他にも「手順の視覚化」は大切です。やることの手順が最初から視覚化されていれば、メモする必要もなく、スムーズに行動に移ることができます。ただし、この時のイメージは一般的なものより、かなり詳細に書いた方が良いでしょう。

例えば、マニュアルが存在する仕事でも実際進める中で、「書いてないコツ」が存在する仕事はたくさんあります。この「コツ」まで、追加で書かれているマニュアルでないと、手が止まったり、どうして良いかわからず固まってしまう人もいます。


理解が必要な支援ではありますが、ワーキングメモリの発達に困難を抱えた人はつまづくポイントが非常に多いので、詳細なマニュアルが大切になります。

これは悪ことばかりではなく「どんな人もできるマニュアルになる」という意味で、実は職場のパフォーマンスアップにもつなげることができます。

大切なこと・・・

以上を踏まえると、

 ▶︎ 自己理解
 ▶︎ 助けを求めるスキル

という2つがワーキングメモリが低い人への支援で大切になります。

「ワーキングメモリが低いのであれば、どうするのか?」と自己理解して動くことで、対人関係のすれ違いや仕事上のミスは大きく減らすことができます。そして、

「忘れてしまうので、メモを取らせてください!」
「これは得意なので任せてください!ただこちらは苦手なのでお願いしていいですか?」

といった助けを気軽に求めることができる関係性づくりにもつなげることができます。

環境と個人、両方のアプローチがあれば「ワーキングメモリが低い」ということは、大きな問題にはならないのです。

最後に

ワーキングメモリは、日常の多くの場面で使われるので、能力の差が目立ってしまう特徴があります。また、ワーキングメモリを改善する方法は、現時点で確実と言われるものは見つかっていないのが現状です。

よって、本人の悩みごととして顕在化しやすい特徴があります。しかし、今は新しい技術も生まれ、多様性のある社会を目指す環境が整いつつあります。どんな人も自分の力を発揮できる社会を目指していきたいですね(^ ^)

以上です!

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