見過ごされている
今回は、LD(学習障害)の紹介です。実はADHDやASDよりも人数が多いと言われてますが、行動面の問題が目立たず、見過ごされている当事者が多いと言われます。
ぜひ読んでいただき、LDの子への支援にお役立ちいただければ幸いです(^ ^)
学習障害・限局性学習症とは?
この記事ではLD(学習障害)について紹介していきます。現在は、SLD(限極性学習症)と呼ばれることが多いので、こちらの名前をメインとしています。
これは知的障害のように、知的能力が全体的に低いのではなく、特定の能力だけ低い(限極性)という特徴があるので、このように呼ばれます。
3つの症状

SLDの症状には医学診断で主に3つの症状があります。
▶︎ 読むことに困難がある、読字障害
▶︎ 書くことの困難、書字障害
▶︎ 算数に困難がある、算数障害(計算と文章題)
もう少し詳しく紹介すると、LDとは「文字の使用の困難」になります。
(医学的定義での考え方)
▶︎ 文字を読む困難 → 読字障害(発達性読み書き障害)
▶︎ 文字を書く困難 → 書字障害
▶︎ 算数言語の困難 → 算数障害
「話す聞く」という能力は、人間が生物として本来的にもっている能力です。
一方、「文字」は生まれて数千年の歴史しかない存在です。今では当たり前ですが、本来的には自転車や箸のように、様々な脳機能を使って練習して、初めて身に付く能力です。
そのため、自転車に乗るのが苦手な人がいるように、あるいは大人になっても箸の持ち方が変な人がいるように、文字の使用にも得意不得意な人が現れてしまうのです。
しかし、文字は「学習」という場において不可欠な存在であり、使えないことで社会的な困難が多く生まれてしまいます。よって、「学習障害」という存在が生まれたのです。
発達性読み書き障害(ディスレクシア)

1つ目は、発達性読み書き障害です。これは「文字を読むことに困難がある」という状態です。イギリスなどヨーロッパではディスレクシアという名前で呼ばれており、ご存知の方も多いと思います。
困難の原因には様々な説がありますが、主な理由は「音韻の力」の困難だと言われています。

音韻とは簡単に言えば「文字を見ると、頭の中に音声が浮かぶ」という状態です。
多くの大人は、本、新聞、ネット記事、メールなど文字を見ると、頭の中で音声が自然に再現されます。この音韻の力があるので、文章を自然と読み、内容を理解することができるのです。
一方、文字を初めて見た幼い子や文字を習ったばかりの子は、この音韻の力がまだありません。よって、子どもは一文字ずつ読んで「文字の形」と「音声」を頭の中に入力していきます。そうして、何度も音読するうちに、
一文字→単語→文節→文
と多くの文字の塊を一度に音声化できるようになります。
このように、年齢が小さいうちに何度も音読を繰り返すことで、子どもは音韻の力を高めます。同時に、文字理解の負担が減るので、その分の力を文章の内容理解に回せるようになり、文章読解の力も高めることができます。
これはどんな言語学習においても重要で、例えば英語を習い始めの時は、教科書の文章を何度も音読して、単語と音声を一致させます。そして一致していく度に、自然に脳内で自然に再生されるようになるので、その分の力を読解に回せるようになり、結果的に読解のスピードは向上していくのです。
もし英文読解が遅い人、苦手な人は、まずはたくさん英文を音読をして、自然に読めるという状態を目指すと良いでしょう(^ ^)
このように、言語を獲得していく上で非常に大切な音韻の力ですが、この力に困難があると、学習の負担も増えてしまいます。一年生から二年生中盤までの段階で、約96%の子は、この音韻の力を獲得すると言われています。しかし、残りの4%の子は、獲得が遅れてしまうので、どうしても学習に困難を抱えてしまいやすいのです。
また、「読み」はほぼ全ての学習において使う力なので、この力が弱いと人生そのものへの影響も膨大になってしまいます。このように、「読み」の困難に支援を入れることは、非常に重要なのです。
書字障害(ディスグラフィア)

次は「書字障害(ディスグラフィア)」です。これは「文字を書くことに困難がある」という症状です。こちらもディスレクシア(発達性読み書き障害)以上に、色々な説があり、まだ原因が確立しているとは、断言しにくい状態です。
その中でも有力な説は「頭に浮かんだ発想を言語化できない」という症状です。考えたことは、イメージや音声など色々な情報で再生されますが、それを文字で表現して思い浮かべる力が書くときには必要です。この考えた言葉(音声)を文字にする力を「エンコーディング」と言います。

文字を音声にするデコーディング(音韻の力)とは逆の力になります。
考えたことを文字化することができなければ、当然書くことは不可能になります。主要な原因はこのエンコーディングの力と言われますが、他にも作文などでは、プランニングと呼ばれる計画性の力が必要です。
これは、「最初は題名、次は名前、次は一マス開けて、書き出しを書く・・・」のように順序立てて計画を立てる力です。この順序立てて考えるプランニングの力が低いと作文がうまく行えなくなります。
このように、一口に「書くことが苦手」と言っても、原因は多岐に渡ります。
算数障害

最後は算数障害(ディスカリキュリア)の紹介です。これは計算や推論などが苦手というものです。
▶︎ 計算は算数における「計算・暗算」
▶︎ 推論とは、「文章題」
のことを指します。
症状の理由は様々ですが。1つに「数の概念」が形成できていない、という理由があります。数の概念とは、一般的に、
▶︎ 「1つ、2つ、3つ・・・」と順番に数える力(序数性)
▶︎ 3つの物を見て「3」とものを数に置き換える力(基数性)
のことを指します。
これらは数を把握する基礎的な力になりますが、この数の概念が形成できていないと、イラストから式を立てられなかったり、計算・暗算ができなかったりするなどの状態につながります。
例えば、親御さんとの面談で「うちの子は100まで数えられるけど、計算が苦手なんです」と言われることがあります。
これは、「順番に数える力(序数性)」は育っているけど、「ものを数に置き換える力(基数性)」が育ってないことから起こります。順番の「3」と、三つのものが「3」とわかる能力は別ということです。
他にも、ワーキングメモリの困難があり算数に困難が生まれるケースがあります。ワーキングメモリは、暗算をする時に頭の中で数字を操作する時に使う力です。
例えば、「7+8」という計算をするときは、頭の中で、
「まず7は10まであと3つ、なら8を3と5にわける、そして7と3をたして10、残った5をたして、15!」
と頭の中で数字を何度も操作しなければいけません。(文章で書くとこのようなイメージですが、実際は数字をイメージを動かして行う子が多いです。)
ワーキングメモリが低いため、頭の中に数字を保持できず、その結果「繰り上がりの足し算、繰り下がりの引き算」でつまづく子は多いです。むしろ筆算の方が記憶力への負荷は少なく簡単なので、繰り上がり、繰り下がりをクリアすれば、3年生の「あまりのある割り算」、4年生「割り算の筆算」までは比較的、スムーズに習得することができる子が多いです。
最後に
今回は、SLD(限極性学習症)について紹介しました。しかし、学習障害はまだまだわかっていないことも多く、研究中の部分は多いです。これは、「勉強ができない」という状態は、様々な要因が関わってくるため、原因、理由、対策などの一貫して調べることが難しいからと考えられます。
しかし、発達障害研究の知見と、現場の教育実践を組み合わせて、現場の人は日々新しい支援方法を開発しています。原因を探すよりも、「その子に合った学習方法」を探すアプローチがLD支援では大切となるのです。
学習に困難を持っている子のために、共に新しい支援方法を探し続けましょう!
以上、参考に慣れば幸いです(^ ^)