ご褒美を使ってはダメ?
子育て本や教師向けの専門書には、
「子どもはご褒美を使ってはいけません。ご褒美を設定すると、ご褒美のために動いてしまう。子どもが自発的にやる気を出すので、それを生かすことが大切なのです」
というように、ご褒美否定説を紹介している本は多いです。
一方で、現場で子どもを見ていると、うまくいく子もいる一方で、
▶︎ 自発的な活動が少ない子
▶︎ やる気を生かそうとすると好きなことばかりしてしまう子
などもおり、「本当なのかな?」と感じて理想と現実の間で悩んでしまう現場の人は多いです。
報酬系機能の障害

「ご褒美はダメ」「子どものやる気を尊重する」
このような言葉に悩んでしまう原因として、1つに
「ADHDの報酬系機能の障害」
というものがあります。
「人は長期的な利益を考えられる子ども(自制心がある子ども)ほど、成功する」という事実を研究結果で示したマシュマロテストというものがあり、この研究以降、大人は自制心のある態度を子どもたちに望むことが多くなりました。
一方で、発達障害のADHD(注意欠如多動症)を抱える人の脳では、長期的な利益のために我慢をする「報酬系機能」と呼ばれる機能が低下していることがわかっています。
この機能が低下すると、興味関心のあることは、非常に意欲が沸きますが、興味のないものにはほぼ頭が働かず、行動しなくなり、例えば、
「宿題は全然やらずに、ゲームばかりする」
「お菓子をたくさん食べて、夕飯で嫌いなメニューは残す」
などの行動が起こりやすくなります。
どんなに、「勉強は将来大切なのよ!」「色々な食品を食べると健康に良いのよ!」と説明しても、それより興味関心のあるものが目の前にあると、そちらを優先して動いてしまうのです。
そして、興味のないことはほとんど行動しないので、「わがままな子」というレッテルを貼られてしまったり、「やっぱりお小遣いやプレゼントなどでご褒美作戦の方が良いのでは?」と悩む親御さんが出てきてしまうのです。
Mischel, Walter; Ebbesen, Ebbe B.; Raskoff Zeiss, Antonette (1972). “Cognitive and attentional mechanisms in delay of gratification.”. Journal of Personality and Social Psychology 21 (2): 204–218.
どうすれば良い?

ADHDをはじめとした報酬系機能が低い人は一定数存在しますが、このような短期的な利益で動いてしまう子にはどうすれば良いのでしょうか?
様々な支援がありますが、1つは「ご褒美を積極的に使ってしまう」という方法があります。
例えば、お小遣いを毎月600円などで渡すのではなく、
「宿題をして、明日の準備をして、家のお手伝いをすれば20円」
など適切な行動に対して報酬を設定します。
すると、目の前に報酬があるので毎日の適切な行動を獲得しやすくなります。(特に、ADHDはワーキングメモリが低いという特性で、家事が苦手な傾向がありますので、子どもの頃から報酬を活用して家事スキルを経験しておくことはとても大切です。)
このような提案には、
「お金がないと動かない人になるのでは・・・」
と心配になる人もいるかもしれません。
しかし、社会に出れば毎月給料をもらって働くことがほとんどですので、「対して状況は変わらないので大丈夫」と考えることもできます。
また、お金だけでなく、
▶︎ お菓子
▶︎ 友達
▶︎ 人からの感謝
など、何が報酬となるのか、人によって異なります。
その人にとって、「これがあれば自分は動ける!」という自己理解を進めることで、将来にわたって困難を乗り越える力を得ることができます。
逆に、好きなことしかやらないで、苦手なことを疎かにしたばかりに、将来の自立スキルが獲得できないケースは多いです。
もちろん、問題解決能力が高いADHDの人であれば、なんとかできるかもしれません。しかし、問題解決能力に課題のあるADHDの人は、子どもの頃から計画的にスキルを身につけた方が将来の不安は減らすことができます。
このように、
「子どもの実態に合わせながら、ご褒美は積極的に使う」
という選択肢を持っておくことが、発達支援においては重要と言えるでしょう。
最後に
子育てなどの教育方法を紹介した本には、
「こうした方が良い!」
「科学的にも証明されている!」
と様々な謳い文句が紹介されています。
しかし、どのような関わりが子どもにとって良いかは100人いれば100通りです。
子どもの得意不得意、好き嫌いなど実態を踏まえて、育て方を考えていきたいですね(^ ^)