記憶からADHDの行動を考える 〜注意散漫×計画性×発想力〜

ADHDと記憶

今回は「記憶」という脳機能からADHDの行動を考えます。ADHDの研究は現在も世界中で進んでいますが、まだまだ未解明のことも多いです。そんな中、今回は記憶の基本的な機能の説明に加えて、

  • ADHDはなぜ注意散漫なのか?
  • ADHDはなぜ計画性がないと言われるのか?
  • ADHDは、なぜ発想力が豊かだと言われるのか?

というテーマで紹介します。 

前頭前野の記憶機能

記憶のメカニズムは、昔から様々な説がありますが、現在は脳全体で行う活動だと言われています。そして、記憶には様々な種類がある中で、ADHDの症状は、前頭前野と呼ばれる箇所の記憶の働きに関係していると言われます。

前頭前野は、思考・想像力・理性など人間らしい行動を司っている脳機能です。具体的には、前頭前野では主に、「ワーキングメモリ」「プランニング」という記憶機能が働いています。仕組みを簡単に説明すると、例えば、部屋の片付けをする時は、

  1. 一時的に覚える(何を片付けるか頭の中で一時的に覚えておく)
  2. 優先順位をつける(まず大きい本から片付けて、次は棚にしまうものをまとめて戻す・・・と、頭の中で覚えながら優先順位が高い順に並べ替える)
  3. 関係のない情報を忘れる(雑誌はこのあと読んで捨てるから片付けない=記憶から消す)

 このような記憶のステップを前頭前野では行っていると言われています。そしてADHDは、この前頭前野の機能が低下していることが知られており、この3つの力に困難を抱えていると言われます。以下で詳しく紹介します。

 ADHDはなぜ注意散漫なのか? 〜ワーキングメモリの困難〜

頭の中で一時的に記憶しておく力を、ワーキングメモリと呼びます。(以下W・M)そしてADHDの人は、前頭前野の活動が低下、つまりこのW・Mの力も低い傾向にあることがわかっています。

 この力が低いと、取り入れた情報を頭の中で保存しておくことができません。つまり、何かをしようとしても、頭の中から抜けて「何するんだっけ?」と忘れてしまいます。そのため、次々に現れる新しい出来事や感覚情報に振り回されてしまいます。これが注意散漫な行動(多動性)が起こる原因と言われています。

例えば、片付けの時にW・Mが低いと、

「片付けをしよう」
「あ!このおもちゃ懐かしい!」(この時点で新しい情報に押し出されて「片付け」の意識が消える)
「あ、この漫画久しぶりにみた!ちょっとどんな内容だっけ・・・(読み出す)」

と新しい情報にどんどん反応して、元の目的を忘れてしましまいます。

なお最近まで、ADHDは同じ前頭前野の抑制機能(自分を抑える力)が低いことで多動性が起こる、という紹介が主流でしたが、近年はこのW・Mの力が低いことが多動性の原因であることも多いことがわかっています。

ADHDはなぜ計画性がないと言われるのか? 〜プランニングの困難①〜

人の行動には、W・Mを使って目的を一時的に覚えておく必要があります。ADHDの人は、W・Mが低い傾向にありますが、頑張って覚えておける人も多くいます。(頭の中で繰り返し唱えていれば、その間は覚えておいておけることもわかっています)

ただし、行動するためには覚えた情報を優先順位をつけて並び替えなければいけません。何をするか明確でないと、人は行動できないからです。 しかし、並び替えは記憶を保持したまま行うので、記憶への負荷が高いです。そのため、ADHDの人は優先順位をつけることが苦手です。

そしてうまく優先順位をつけられない結果、「よくわからないな・・・とりあえずメール返信しよう」と優先順位に関係のない目の前にある仕事を初めてしまいます。

ADHDはなぜ計画性がないと言われるのか? 〜プランニングの困難②〜

また、ADHDのない人は、優先順位を考えている間に、無意識に関係のない情報を忘れるよう行動します。例えば、片付けをする時に「ハガキを出す」という行動は関係ないので意識から消してしまいます。(この忘れる力もプランニングの力の1つです。)

しかし、せっかく覚えても、今度は「必要ないことを忘れる力」が低いために、無関係な情報を含めて優先順位をつけようとしてしまいます。結果的に、片付けの最中に、「あ!ハガキ出さなきゃ!」と片付けを放り出して、別の仕事を初めてしまう、ということがよく起こります。この、

  • 優先順位がつけられない
  • 無関係のことを忘れることができない

という記憶の特性によって、ADHDの人の困難が生まれます。

これは日常的な片付けや料理など自分だけに関する範囲内であれば問題ないかもしれません。一方、計画的に進める会社の仕事や、旅行の計画など他人と組織的に行う仕事では、優先順位のミスが全体に大きく響いてしまうことが多いです。このため、組織で仕事をするほどADHDの人はミスをして、周囲に迷惑をかける可能性が上がります。(基本的に大きな組織では不利に働く特性と言えます。)

しかし、

  • 仕事をその場でメモする
  • 優先順位は慣れない間は、誰かと一緒に考えてもらう(+誰かと一緒に行う)

などの対策をすれば、回避できることも多いです。

ADHDを抱えた人の子ども時代では、家族、先生、仲間などサポートを受けて、苦手を乗り越えた人も実は多いと言われます。しかし、就職して一人で仕事をした途端、自分の特性を知らないので、対応できなくなり失敗体験を積んでしまうのです。

 ADHDは、なぜ発想力が豊かだと言われるのか?

上記のようにマイナス面が目立つADHDですが、一方で

  • 発想力が豊か
  • アイデアマン

と言われることがあります。

この発想力の力も、記憶の特性が関与していると言われています。②で、「無関係のことを忘れることができない」という特性を紹介しました。これは日常でも同じであり、常に優先順位とは関係のない様々な情報がADHDの人の脳内には浮かんでしまいます。

そして、様々な情報が同時に浮かぶ結果、関係のない情報同士が繋がり、新しい発想につながることが多いと言われます。反対に言えば、普通の人(定型発達の人)は、優先順位の低い行動は基本的にすぐ忘れていきます。その結果、斬新なアイデアを思いつくという瞬間は、ADHDの人と比べると少なくなります。
(よって、ADHDのない人がアイデアを出すためには、どんな情報でもいいのでノートやホワイトボードに大量に書き出す、その上で繋げられる情報がないか考える、いわゆるブレインストーミングと呼ばれる方法が有効だとわかっています)

一見、マイナスに見えるADHDの特性ですが、発想力という武器を中心に考えると強みを生かしたライフプランを考えることができるかもしれません。

最後に

今回は、「記憶とADHD」について紹介しました。しかし、「記憶」は、まだまだわからないことが多い領域です。そして、記憶は「脳全体」で行われる活動であるため、脳機能の障害である発達障害にはとても関わりの深いテーマとなります。

今後も記憶と発達障害に関するテーマで定期的に発信をしていきたいと思います。


【公式アカウント】

友だち追加
*メールアドレス
お名前(姓・名)

こども発達支援研究会の紹介

研修会の案内

こはスクのご案内