凸凹マップ!第3回【後編】発達障害体験談〜在宅勤務の工夫と実態〜

シリーズ「凸凹マップ!」について

シリーズ「凸凹(でこぼこ)マップ!」は、発達障害当事者の人たちの体験談をまとめた連載です。

発達障害は(でこ…得意な部分)と(ぼこ…苦手な部分)の差が大きい障がいと言われています。
詳しくは発達障害とは何か? 〜法律に基づく3つの特徴〜をご覧ください。

こうした発達障害について、まだまだ世の中には認知されていない現状があります。目には見えづらい障害だからこそ、なかなか周囲に辛さを分かってもらえず、苦しい思いをしている当事者の人たちが多く存在しています。

シリーズ「凸凹マップ!」は、そうした人たちの手助けをするために執筆しました。この連載が、発達障害で悩む当事者、保護者、支援者の人たちの、障害を理解するヒントになれば幸いです。

前編のふりかえり

前編はこちら

ゆりかさん

  • 女性
  • ADHD(注意欠陥・多動性障害)当事者
  • お子さんはADHD、ASD(自閉症スペクトラム)当事者
  • 事務職(一般就労)

前編では、ゆりかさんの小学生時代の体験を中心に振り返っていただきました。

苦手な教科はあったものの、得意な教科も多く、常に遊べる友人はいたため、「大きな困り感はなかった」そうです。

しかし、就労を機に、ゆりかさんはご自身の特性と直面することになりました……。
後編では、お仕事を始められたゆりかさんの体験談を綴ります。

発達障害体験談

マルチタスクの難しさ

中学校を卒業してからの進路を教えてください。

高校に進学して、その後はエスカレーター式に短大に行きました。

アルバイトを始めたのは15歳の時からですね。

高校に進学して、すぐにアルバイトを始められたのですね。

スーパーの精肉部門や、コンビニやうどん屋さんなど、それぞれ、半年から1年ずつ位でしょうか。

至らないところも多かったと思いますが、職場には主婦の方が多く、当時15歳という年齢もあって、可愛がっていただきました

働き始めて、困ったことはありますか?

人間関係の面では大丈夫でした。

しかし、マルチタスクが本当に苦手でしたね。

特に飲食のお仕事は向かなかったです。飲食では、注文をとっているうちに、また別の仕事が入ってくるじゃないですか。

色々なことに注意を払って、同時進行でやる……といったことが、苦手でできなくて、苦痛でしたね。

ADHDの当事者の他の方にも、色々と話を伺っていますが、マルチタスクが苦手な方……とっても多いみたいです。




短期長期合わせて10種類以上の仕事に就く

色々なアルバイトを経験されたのですね。
高校を卒業した後は、どうなりましたか?

エスカレーター式に短大に進学しました。
短大の卒業後は、短期や派遣で、事務や受付、ルート営業のお仕事などをしました。

就いた仕事は短期長期合わせて10種類以上でしょうか。

卒業後も、多くのお仕事にチャレンジされたのですね。

中でも続いたのは、
携帯ショップの受付とルート営業のお仕事
ですね。
どちらも3年ずつ働くことができました。

特に、ルート営業のお仕事は続けたかったのですが……ある事情で実質クビになってしまいました。

ふむふむ……
といいますと?

交通事故を2年で6回も起こしてしまったんです。

2年で6回もですか!?
お仕事で、かなり車を使っていたんでしょうか。

そうですね。
1日100キロ以上走っていたので、
今にして思えば、ADHDの特性のため、集中力が持たなかったのでしょう

短い距離なら運転は問題なく、プライペートでは無事故でした。




結婚後、事務の仕事へ。コロナ禍により在宅勤務になり……

ルート営業のお仕事を実質解雇になってからは、どのようになりましたか?

その後結婚しまして、短期の仕事をいくつかしました。

今は子育てをしながら、事務の仕事をしています。
コロナ禍の影響で、在宅勤務になっていますが、かなり調子がいいですね。

仕事内容は同じでも、環境が変わったことで、いい影響があったということでしょうか。

振り返ってみると、職場には集中を散らしてしまう要因が多いのです。
私の場合、発達障害の特性のためか、冷房の風や暖房の風、タバコの臭いや隣の人の物音などですぐに集中が途切れてしまいます。

定型発達の人が気にならない要素でも、ゆりかさんの場合、集中を奪われてしまうんですね。

人よりこだわりが強いのかもしれません。

その点、在宅勤務は非常に快適です。
環境を自由にいじることができる……これは大きなメリットですね。




在宅勤務のさまざまな工夫

事務のお仕事は、具体的にはどのようなことをしていますか?

メールや入金のチェック、請求書の作成などですね。
在宅になってからも同じです。

在宅勤務をする上で、工夫していることはありますか?

これは在宅勤務前からしていることですが、
仕事内容を、細かく分けてタスク化して、紙やワードで管理しています

例えば上司に「アンケートを直してください」と指示を受けたら、

・直すところをリストアップ
・直さないところをリストアップ
・ホームページ差し替え作業
・PCのデータ入れ替え
・上司へ報告する

このような具合です。小さな仕事でも小分けにすることで、次にやるべきことが明確になり、取り組みやすくなります

抽象的な指示を、具体的な行動に落としていくわけですね!

他にはありますか?

あまり大きな声では言えないのですが、
在宅勤務になってから、仕事の合間に家事をはさんで、集中力を保てるようにしています

もともと集中力が持続せず、1時間くらいで切れてしまうんですね。
ですので1時間おきに家事やちょっとした用事など、別のことをはさんで、また仕事に戻るということを繰り返しています。

その方がかえって、仕事の能率が上がるということですね。

そうなんです!
少し動くことでリフレッシュし、集中して仕事に戻ることができます

もちろん、仕事は滞りなく提出できています。

職場だと、一見「サボり」とみなされてしまうことですが、仕事の生産性を上げるために有効な手段だと言えそうですよね。

もともと、事務仕事は多動傾向のある自分には絶対向かない職種……と考えていた、ゆりかさん。

しかし、コロナ禍で職場環境が在宅に変わった途端、事務は向かない職種ではなくなったそうです。

在宅勤務は「楽に頑張ることができる」と語るゆりかさん。

しかし、ミスを防ぐための努力は人の何倍もしているそうです。

この事務の仕事はミスが許されないものです。
お客様を相手にするわけですからね。

加えて、私には発達障害の特性があり、人よりミスをしやすいのです。
そのため、人よりチェックする機会を多く作るようにしています

具体的には、どんな工夫をされているのですか?

指差し確認や音読ですね。
必ず、2回、3回とチェックしています。

そうなると、実際の作業時間だけではなく、チェックのための時間もかなりかかるのでは……

そうなんです。
1時間請求書の作成を行ったら、
1時間請求書にミスがないかチェックする。

人の3倍はチェックします
つまり成果は人の3分の1になるわけですから……正直むくわれないですね。

割には合わない……と感じていらっしゃるのですね。
それでも、今の仕事を続ける理由はなんでしょうか?

身体が快適な場所にいられるからですね。
時間の融通が効く仕事でもあるので、子育てでも助かっています。

「楽に頑張れる」仕事か、「楽ではないがお金になる」仕事か、ライフスタイルに合わせて選んでいけばいいと語るゆりかさん。

子どもが大きくなるまで、あと2、3年は今の仕事を続けたいそうです。


はみ出したくてはみ出してる人はいない

在宅勤務の実態など、詳しく聞かせてくださり、ありがとうございました。

最後に、同じ立場の人達に向けて、メッセージをお願いいたします。

わかりました。
3つお伝えしますね。

先ほども触れたのですが、
指差し確認や音読など、ミスをしないための工夫はした方がいいです。

ADHDの人には、他の人よりミスをしやすい特性があるわけですからね。

②あなたが今の環境で嫌われているなら、その「理由」をとことん探りましょう

「真面目にやってるのに報われない」のは、ADHDあるあるの辛い状況なんですね。
ガムシャラに頑張るのではなく、状況を分析して、きちんと対策を練るべきです。

はみ出したくてはみ出てる人はいません。

これは当事者の方だけではなく、その周囲にいる方にもお伝えしたいですね。

なるほど……

「頑張る」まえに分析をし、何を「頑張る」べきなのか考えて動いた方が結果に繋がりやすいですよね。

「はみ出したくてはみ出ている人はいない」というのも、本当にその通りだと思います。

ありがとうございました!




全体のまとめ

「真面目にやっているのに報われない」

発達障害を持つ人達は、定型発達の人よりも、このような気持ちを抱きやすいのではないでしょうか。

発達障害の特性のために、他の多くの人ができることができなかったり、周囲の理解を得ることが難しかったり……
一生懸命頑張っていても、認められない体験を繰り返すことで、二次障害を起こしてしまう当事者の方もいます。

ゆりかさんは、ご自分の苦手と向き合い、徹底的に分析しました。

長距離の運転は事故に繋がりやすい、
周囲の環境で極めて集中が散りやすい、
マルチタスクが苦痛、
人よりもミスをしやすい……

そしてゆりかさんは、改善の必要があることを絞り、努力をしました
ミスを防ぐために、人の3倍チェックをすることにしたのです。

また、身体と心が快適に過ごせる方法を考え、実践しています

こうした解決的思考は、発達障害を持つ人達が、社会と調和していくために、必要な考え方ではないでしょうか。

今回も、学び多き取材となりました。
引き続き、当事者の方に話を伺っていきます。


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