自閉症児に対する音楽療法の有効性について〜システマティックレビューより〜

ASD

自閉スペクトラム症と音楽療法

発達障害のあるお子さんに対して、音楽療法を実践する施設も徐々に増えてきていますが、果たしてどれくらいのエビデンスがあるのか、気になったことはありませんか?

今回は、自閉症スペクトラム障害を含む複数の疾患に対する音楽療法の有効性を系統的に調べた最新の研究(2022年)をもとに、ご紹介していきたいと思います。

今回紹介する論文:こちらの研究では、自閉症スペクトラム障害の他に認知症、うつ、統合失調症に対する音楽療法の有効性も検証されていますが、本記事では自閉症スペクトラム障害に関する結果を抜粋してお伝えしています。

Effectiveness of music therapy for autism spectrum disorder, dementia, depression, insomnia and schizophrenia: update of systematic reviews.(※1)



●【研究概要】自閉症児に音楽療法を実践した複数の文献を検証する研究

本研究の基準を満たした10件の文献のうち、自閉症スペクトラム障害に関する文献は以下の3件でした。

1件目:2歳〜9歳(164名)の自閉症児に対し、1週間〜7か月の音楽療法の実施した研究(※2)
2件目:4歳〜7歳の自閉症児(364名)に対し、5ヶ月間の音楽療法の実施した研究(※3)
3件目:6歳〜12歳の自閉症児(51名)に対して、8〜12週間の音楽療法の実施した研究(※4)



これら3つの文献を調査した結果、これまで報告されてきた音楽療法に関する論文では、音楽療法は、自閉症児の言語的なコミュニケーションスキルの向上や、常同行動の減少に、良い影響をもたらすことがわかりました。ただし、非言語的なコミュニケーションスキルの向上には、有意差がみられないことも指摘されました。

また、2件目の文献(2017年)では、自閉症の中核症状の改善に音楽療法の効果が認められなかった、先行研究とは対照的な結果を報告しています。


なお、副次的な効果として、親子関係が良好になったり、喜びを共有できるようになったりすることが報告されています。親子関係の質の向上に関しては、1件目の論文でも同様の報告がされています


●そもそも、音楽療法とは?

さて、音楽療法とは、どのようなアプローチ方法なのでしょうか?

日本音楽療法学会によると、音楽療法とは、「活動における音楽の持つ力と人とのかかわりを用いて、クライエントを多面的に支援していきます。言語を用いた治療法が難しいクライエントに対しても有効に活用できる方法」とされています。(※5)

また、音楽療法は、「音楽体験を通して生まれる他者との関係性を利用して、コミュニケーションおよび自己表現を実現し、自閉症スペクトラム障害の人々の中核的な問題に向きあう方法」とも言われています。(※2)

具体的には、キーボードや鈴、マラカス、太鼓、鉄琴、木琴などの楽器で音楽を楽しみながら、対象児童の言語または非言語コミュニケーションスキルを伸ばしていくことができます。必要に応じて、体性感覚に働きかけるために、体を大きく使ったトランポリンやダンス、または視覚支援のために絵カードや歌の絵本を利用することもあります。

このように、発達支援で活用される音楽療法ですが、一般的に自閉症スペクトラム障害を持つ人々に有効だとされつつも、 その利点を裏付ける神経科学的根拠はないと言われています。(※3)

しかし、音楽療法の導入によって、こだわり症状から起因する行動が軽減されたり、言語コミュニケーションスキルの向上が見られたりする報告があるのも事実です。

また、現時点で自閉症スペクトラム障害への特効薬がない以上、薬物療法に頼らない手段の一つとして、お子さんへの身体的な痛みや副作用などを伴いにくい音楽療法の導入は、一考の価値があると言えるでしょう。

ちなみに、先ほど紹介した2件目の文献は、自閉症スペクトラム障害の中核症状の改善に効果は認められなかったという、音楽療法の効果を一部否定する研究でした。

しかし、所定の研修を受けた音楽療法士による音楽療法の提供が不可欠であることや、音楽療法士に相当する訓練を受けた看護師やそのほかの専門職種であれば、より効果的な支援につながることが提案されています。

また、国や地域によって、音楽療法の手法も異なり、一回あたりのセッション時間や介入期間・頻度も異なるため、自閉症スペクトラム障害に対する音楽療法の効果を検証するには、質の高い長期的な追跡評価が必要だと言えるでしょう。


●音楽療法を導入した事例について〜筆者の経験から〜

筆者は、児童発達支援で作業療法士兼保育士として自閉症の診断のお子さんに支援を行った経験があるため、支援に音楽を導入した事例をご紹介したいと思います。

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軽度の知的障害を伴う5歳の自閉症のお子さん(以下、Aさん)に対する、音楽を介して言語的コミュニケーションが増加になったエピソードです。

初回評価では、言語発達に遅れが見られ、オウム返しなどの内容伝達の伴わないものが多く、指示に従った行動がありませんでした。視線は時々合いますが、一緒に活動を共有する様子がなく、支援者だけではなく他の児童との交流も困難でした。

保護者からの聞き取りで、Aさんは「自宅で教育テレビやCMのリズムカルな音楽を真似て口ずさむ様子がある」との情報を得ることができました。私は、Aさんは机上検査では明らかになっていませんでしたが、聴覚優位なのではないかと推察し、Aさんが好きであろう音楽を通して、Aさんと支援者との関係を繋ごうと考えました。

支援者がキーボードで朝の会の演奏をすると、興味があるのか近くに寄ってきて、一緒に活動を共有することが増えてきました。次第に、支援者を「自分の好きな音楽を弾いてくれる人」だと、認識してくれるようになりました。

Aさんは、クレーンハンド(大人の手を持って欲求を叶える行動)などで、支援者に対して、キーボードを弾くように訴えるようになりました。

そこで、支援者はAさんが大きなかんしゃくを起こさない程度に、すぐに音楽を弾くのではなく、要求の発語を促してからAさんの希望の音楽を弾くようにしました。 すると、支援に音楽を導入してから3ヶ月ほどで、Aさんは不明瞭ながらも「もう一回」「パプリカ」など、発語する努力をするようになりました。

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このように、自閉症のお子さんは、他者との関わりを持ちにくい傾向にありますが、音楽を通して、支援者との接点を作り、信頼関係を結んでから発語を促す関わりができる可能性があります。

音楽は、我々大人に身近な存在であるのと同じように、自閉症のお子さんにとっても馴染みやすいです。もし、他者との関係を保とうとしない自閉症のお子さん、とりわけ音楽に対して多少の興味のあるお子さんであれば、ぜひ音楽を通して、人との関わりを増やしてみると良いでしょう。

●まとめ:音楽好きなお子さんなら音楽療法を試す価値アリ

音楽療法に関する効果としては、ほとんどの文献では、コミュニケーションや行動面について、良い影響が報告されていますが、一部否定する報告があるのも事実です。

しかし、一部否定する研究でも、親子関係の質に良い影響を与えるなど、少なくとも悪影響を与える実践ではないことも確かです。 音楽療法は、一部の放課後等デイサービスや特別支援学級でも行われているとの実践報告もありますので、機会があればぜひお子さんに試してみてはいかがでしょうか。(※6)

●参考文献

※1:Gassner L, Geretsegger M, Mayer-Ferbas J.: Effectiveness of music therapy for autism spectrum disorder, dementia, depression, insomnia and schizophrenia: update of systematic reviews. Eur J Public Health 32(1): 27-34, 2022.

※2:Geretsegger M, Elefant C, Mössler KA, et al.: Music therapy for people with autism spectrum disorder. Cochrane Database Syst Rev 2014(6), 2014.

※3:Bieleninik L, Geretsegger M, Mössler K, et al.: Effects of Improvisational Music Therapy vs Enhanced Standard Care on Symptom Severity Among Children With Autism Spectrum Disorder. The TIME-A Randomized Clinical Trial JAMA 318(6): 525-535, 2017.

※4:Sharda M, Tuerk C, Chowdhury R, et al.: Music improves social communication and auditory-motor connectivity in children with autism. Transl Psychiatry 8(1).231, 2018.

※5:一般社団法人日本日本音楽療法学会

※6:第22回日本音楽療法学会学術大会プログラム



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