発達障害を抱える子は偏食が多い? 〜偏食の原因と10の対応〜

発達障害を抱える子には偏食が多い?

好き嫌いをしている子どもを見ると、
「好き嫌いをしてはいけません」
「作った人の気持ちを考えましょう」

と言いたくなる大人は多いです。

多くの人は、好き嫌いはありながらも大人になるまでに改善して、大概は食べられるようになります。

しかし、発達障害を抱える子の中には、この好き嫌いが激しく、偏食状態になっている子が多いことが近年知られてきました。

実際、発達障害を抱える子で摂食問題を抱える子は46~72%も存在するといわれます。
(Ahearn, Castine, Nault, & Green, 2001; Field, Garland, & Williams, 2003; Schreck et al.,2004)


そのため、食事の栄養が偏り、心身の成長に影響が出たり、保護者が悩んでしまうケースも多いです。

今回は、発達障害を抱える子に偏食が多い原因と、どのような対応方法があるかを紹介していきます。


なお、前提として発達障害を抱える人の偏食の問題は、感覚過敏、不安性、こだわり行動などが大きく左右します。そのため、原因は複雑で対応方法も100人いれば100通りの方法が存在します。


また、偏った食事をしていても健康的に育っていく子がいる一方で、無理に食べさせた結果、PTSDなどトラウマを抱えたり、嘔吐して嘔吐恐怖症になったりして、食事そのものを拒否するようになる子もいます。

食事は大切ですが、無理なことは強制せず、ゆっくり焦らずアプローチしていくことが大切です。

偏食の原因と対応

それでは、発達障害のある子にはどのような原因があるのでしょうか?以下では偏食が生まれる代表的な原因と対応方法を紹介します。


1、触覚の困難

偏食の原因として多いのは、口内に触覚過敏を抱えているケースです。
▶︎ ジャガイモのホクホク感が苦手
▶︎ きのこのツルツル感が苦手
▶︎ 揚げ物の衣がチクチクして苦手
▶︎ ブロッコリーの粒々している箇所が不快で苦手
▶︎ フルーチェなど柔らかいドロドロした食感が苦手

このように、食感に対して独自の感じ方のため拒否してしまいます。


対策としては、
◎揚げる、細かく刻む、固める、凍らせるなど調理で食感を変える
◎食べられる食感の食材で栄養バランスを考える

◎足りない栄養をサプリメントで補給する
などがあります。

また、エビフライ、カレー、焼き魚など2つ以上の食感が混ざっていると、不快感を感じて食べられないという子もいます。

この場合は、無理に一緒に食べるのではなく、
◎ 衣と中身のエビを分ける
◎ ご飯とルーを分ける
◎ 骨や小骨、皮、身などを分けておく

など、食感別に分けることで食べることができるようになる子も多いです。

日本は「三角食べ」が推奨されますが、同じ食材をまとめて「ばっか食べ」をする方が、触覚の困難がある子にとっては食べやすいこともあります。


2、痛覚の困難

触覚には触り心地以外にも、様々な感覚を感じ取っています。その中の1つが痛覚です。

痛みを感じ取る痛覚に過敏性があると、辛い料理は困難になります。辛味は「痛み」に分類されますので、痛覚に過敏性がある場合は強く痛みを感じてしまうからです。

対応としては、
◎牛乳、ヨーグルト、豆乳など発酵食品や酸味(すっぱさ)のあるものを混ぜて、徐々に慣れていく
◎辛くない食材で栄養の代替をする

などの方法があります。


3、圧覚の困難

圧覚とは「皮膚を押されている」と感じる感覚です。これも触覚の一種ですが、この圧覚に過敏性があるとサイズの大きな具材を口に入れたり、喉を飲み込む際に苦しさを感じることがあり、食事を拒否する子もいます。

カレーのじゃがいもや大ぶりの唐揚げなど、サイズが大きい食材に抵抗感が生まれるので、具材を小さめにカットしてあげると苦しくないので、安心して食べることができます。

また反対に、圧覚を感じ取りにくい低反応な体質の場合は、
▶︎ ザクザクしたスナック菓子
▶︎ サクサクした天ぷらなどの揚げ物

など口の中に刺激の強い食べ物を好む傾向があります。また反対に、食感が柔らかいおかゆなど、ドロドロした食べ物は苦手になる傾向があります。

その場合は、「栄養バランスを考えてスナック菓子を制限する」などの対応も必要なことがあります。


4、温冷覚の困難

触覚の中には、暖かさ、冷たさを感じる温冷覚という感覚があります。通常は、暑さ、寒さを感じ取るために使われていますが、例えば、
 ▶︎ アイス、冷凍みかんなど過度に冷たいものが苦手
 ▶︎ 暖かい汁物、グラタンなど熱い食べ物が苦手

などの行動として現れることがあります。

この場合は、食事の温度を子どもが食べられる温度に冷ます(温める)という方法で食べられることがあります。

他にも、金属製のスプーン、フォークなどの食器の温度が冷たく(or熱く)不快で食べられないというケースもあります。
その場合は、温度が変化しにくいプラスチック製の食器を使うことで平気になることもあります。


5、嗅覚の困難

味覚や嗅覚に過敏性や低反応があると、食事の味にダイレクトに影響するため、子どもの食事の好みに直結します。

また、人間は食事をする前に、まず嗅覚で匂いを確かめます。これは口に入れては危険なものを識別するためですが、この時点で感覚過敏の人は、

 ▶︎ ハーブのチョコミント
 ▶︎ 酸っぱい匂いのするレモン
 ▶︎ 臭みのする発酵食品

など「生命活動に危険」と感じる匂いには定型発達の人よりも、より強く反応する傾向があります。定型発達の人は、多少臭みや酸っぱさがあっても、食べることができますが、感覚過敏が強い子は、より命の危険を感じるものに抵抗感を覚えるため食事を拒否してしまうようになります。

そのため、
◎ハーブやスパイスは刺激の少ないものに変更するか、使わない
◎酸味・苦味のする食品は、揚げたり味付けをしてマイルドな匂いに変更する

などの対応で食べてくれる子もいます。


6、味覚の困難

嗅覚と同様に、味覚は食事の好みを決める大切な要素です。

ここでも感覚過敏がある人は、酸味や苦味に拒否感を持ち、食べてくれないことは多いです。これは、嗅覚の困難がある子と同様に、味付けの変更や刺激の少ない食材の変更で食べてくれるケースがあります。

一方、味覚が低反応(味をあまり感じない)である子は、味を感知しにくいことで、
▶︎ きのこを食べると味がせず、ゴムを噛んでいるように感じて拒否する
▶︎ 薄味の食べ物を拒否して、味が濃い食事ばかり好むようになる

などの行動につながるケースもあります。味が濃い食事が多くなると栄養バランスも偏り、肥満や生活習慣病につながるケースもあります。

そのため、
◎味は濃い目だが、ヘルシーなメニューに変更
◎食事の量を制限する

などの対応が必要になる場合もあります。


7、視覚の困難

偏食は食材の見た目から起きる場合もあります。例えば、
▶︎ いちごの粒々が気持ち悪く食べられない
▶︎ 白・黄色の食べ物は食べられるが、青や赤色の食事は拒否する

▶︎ 青色の食器で食欲が減退し、食事を拒否する
などの見た目や色で食事を拒否してしまうケースがあります。

この場合は、
◎ 「食材を揚げて黄色にする」など調理で色を変える
◎ 食べられない色の食材は刻んで、食べられる色の食材に混ぜる
◎ 食べられる色の食器に変える

などの対応があります。


8、不安性の高さ

上記でも紹介しましたが、感覚過敏のある子は多くの場合、不安性が高いため、「命の危険がありそうな食材」に対する抵抗感が強いです。そのため、「元が何の肉かわからない」「知らない食材」などへの抵抗感が強く現れます。

例えば、皆さんも「これはサラマンダーの肉です!」と言われてステーキを出されたら、「えっ・・・」「(毒とか入ってない・・・?)」と固まってしまい、直ぐには食べられないと思います。

しかし、「私の飼育していた牛なんですけど、サラマンダーって名前をつけてたんですたんですよ〜」と言われて、実際の牛の写真を見せられたら、「なんだ〜」と安心して食べられることと思います。

このように、人は食材への安心感があって、初めて食事をすることができます。しかし、ASD(自閉症スペクトラム)を抱える人は、想像力の困難さを抱えているケースがあり、知らない食材や元の形がわからない食事に極度に反応して食べられなくなってしまうことがあります。

そのような時は、
◎元の食材の写真を見せる
◎材料の時から大人と一緒に調理をして見た目が変わる過程を見せる

などの不安を取り除く対応をすることで、食べられるようになる子もいます。

9、不器用さ

食事は皿、箸、スプーン、フォーク、ナイフなど多くの道具を使います。そのため、DCD (発達性協調運動症)を抱えていたり、不器用さのある子どもの中には、箸がうまく使えず、大人に叱られた結果、食事そのものを拒否してしまうケースがあります。

この場合は、不器用さがあることを理解して、まずは扱いが簡単なフォーク(安全のためプラスチック製)などから初めて、楽しく食事をすることから始めます。

その中で、徐々に扱える道具を増やしていきます。不器用さは、本人の意思とは関係なく起こりますので、決して急ぐことなくスモールステップで教えていきます。


10、その他

上記で様々な原因と対策を紹介しましたが、それ以外にも様々な原因で偏食は発生します。

例えば、
▶︎ アレルギーを持っており、食事によって口内が痒くなって食べられない
▶︎ ADHD薬のコンサータの副作用で食欲不振になっている

などから食事ができなくなっているケースもあります。

この場合は、医療機関との連携も必要ですので、子どもの実態をよく見て、対応していきましょう。


最後に

今回は偏食を抱える子への10の対応を紹介しました。

対応の中で「足りない栄養はサプリメントで補給する」という方法も紹介しましたが、偏食を持つ子の中には、サプリメントの食感が嫌で拒否する子もいるなど、実際に現場で直面すると、子ども一人ひとりに合った方法を提供することが必要となります。

無理をさせることなく、その子自身が笑顔で食事を楽しめるように取り組んで行きたいですね(^ ^)

以上です!参考になれば幸いです!


<参考文献>

Ahearn, W. H.(2002)Effect of two methods of introducing foods during feeding treatment on acceptance of previously rejected items. Behavioral Interventions, 17, 111-127

医歯薬出版編集(2010)『日本食品成分表』医歯薬出版

中川晴枝・岩本晶子(編)『栄養教育と健康の科学』理工図書

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