自閉症スペクトラムの困難

自閉症の人には、大きく3つの特徴があります。
▶︎ 社会性、コミュニケーションの障害
▶︎ こだわり行動
▶︎ 感覚の困難(過敏性・低反応等)
これに加えて、社会的に困難がある状態であれば自閉症と診断されます。
特に「社会性、コミュニケーション能力の障害」は
▶︎ 空気が読めない
▶︎ 気持ちを察してくれない
▶︎ 全部説明しないと理解してくれない
と、社会生活において不利に働くことが多いです。
近年、発達障害の情報が広まり、認知が高まってきました。しかし、現状はまだまだ正しく理解されていない場合がほとんどです。今回は、そんな「社会性の困難」に関する研究の紹介です。
空気が読めない?

自閉症の人は「空気が読めない」と言われます。
先行研究では、他人の行動の意味を考えたり、予測したりする能力の発達が遅いことが示されており、
「他者理解の能力障害」
と言われることもあります。
このように書くと「他人の心が理解できず、空気が読めない人」と誤解するかもしれませんが、実際は、
▶︎ 雰囲気を察して行動する
▶︎ 泣いている子を心配する
など空気を読んで行動できる子もたくさん存在します。
ただ自閉症と呼ばれる人の中でも、本当に苦手な人から、多少は読めるけど時々わからない、という人まで程度は様々です。この人によって程度が変わるのを「連続体=スペクトラム」と考えることが、最近は一般的になってきました。
サリーとアンの課題
他者理解の能力を測る有名な方法に「サリーとアンの課題」があります。
(参照:「サリーとアンの課題」)

サリーは隠したことを知らないので、カゴから取り出そうとするはずです。
なので答えは「カゴ」となるのですが、自閉症の子は頭の中でサリーの立場になって考えた時、どう行動するのか?ということが理解できないため、間違ってしまうという問題です。
これは自閉症の人はわからない、というわけではなく一定の発達年齢になれば「サリーとアンの課題」や類似の問題も解けることがわかっています。(言語発達年齢で9歳相当とも言われます)
つまり「自閉症=人の心がわからない」ではなく、単に他者理解の能力の成長が人より遅いことが多いという話だと言われます。
どうして空気が読めないのか?
「サリーとアンの課題」のような他者理解の力の発達が遅れるのはなぜか?様々な説がありますが、一つに自閉症の子は「他者理解の能力」を自閉症ではない子と異なった方法で理解しているという説があります。
以下は「別府・野村の誤信念課題の研究」を紹介します。
「別府・野村の誤信念課題の研究」
「サリーとアンの課題」を説いた子どもたちに、なぜその場所を選ぶのか理由を聞いて見ました。
(一般の子、自閉症の子ともに含む)
すると、子どもの答えには3つのパターンがありました。
- 不正解
- 正解はするが説明ができない(直観的心理化)
- 正解し説明もできる(命題的心理化)
その結果、一般の子は3つのパターンにバラバラに別れました。
一方、自閉症の子どもには1か3どちらかに偏り、2の「正解はするが説明ができない」という子がいなかったのです。
このことから、自閉症の子は「説明できないが正解できる」という状態がなく、健常児とは異なるステップで理解しているのではないかと考えられています。
(最近の研究では、言語能力による課題解決能力を使って補っているのではないかと考えられています。)
◆実際に
この研究をもとに考えると、
「説明できない」=「理解できない」
という自閉症の特徴が理解できます。
人間関係のような説明が難しいものは、理解できずうまく立ち回ることができないのも納得です。
▶︎ 状況を考えなさい
▶︎ 空気を読みなさい
▶︎ 言われなくてもわかるでしょ
このような言葉がけは世の中に溢れています。
しかし、これらは子どもを成長させず、逆にパニックを引き起こしてしまうことにもつながります。
逆に考えると、保護者、教師などの支援者は、何かを始めるときは「なぜ必要なのか?」という理由を事前に説明し、納得してもらえれば自閉症の子は普通に行動できるとも考えることができます。
最後に
今回は自閉症の特性と説明の重要さを紹介しました。しかし、「説明」は自閉症の子に限らずどんな子にも重要です。「子どもは言うことを聞くもの」と思って行動すると、後々さらに悪化して支援者に返ってきてしまいます。
「子どもは大人として扱うことが大事」とよく言いますが、それは厳しく接するという意味ではありません。
説明し、納得してもらい、意思を尊重するというごく当たり前の対応をすることが重要ということです。
今回は、自閉症の研究の一部を紹介しました。
今後も少しずつ発達障害に関する情報を世の中に発信していければと思います(^ ^)