なぜDCD(発達性協調運動症)を抱える子は、運動が苦手になるのか?〜視覚依存性の課題〜

なぜ不器用になるのか?

DCD(発達性協調運動症)を抱える子は、不器用な様子が見られるのが特徴です。この背景には様々な要因があると言われていますが、以前から

「視覚情報に頼り過ぎているのではないか?」

という説がありました。

通常、人間は状況に合わせて感覚器官を使い分けて活動します。

◯走る→固有感覚・平衡感覚

◯ボールをキャッチする→視覚(ボールをみる)+固有感覚(ボールが飛んでくる位置に腕を動かす、手をボールの形に合わせる)

◯折り紙を折る→視覚(折り紙をみる)+触覚(折り紙の細部の形を感じ取る)+固有感覚(折り紙を折る)

◯暗闇を歩く→聴覚(周囲の様子を聞き取る)+固有感覚・平衡感覚(歩く)

このように、人間は状況に合わせて複数の感覚器官を使い分けて活動します。


しかし、DCD(発達性協調運動症)を抱える子は、視覚から入ってくる情報に頼り過ぎてしまう傾向があり、結果的に不器用になっているのではないか、という仮説がありました。

感覚に頼り過ぎているのかを調べる

信迫悟志准教授(畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター)
中井昭夫教授(武庫川女子大学)
前田貴記講師(慶応義塾大学)

上記3名の先生方で、DCDを抱える子が、どのような感覚に依存しているのかを調査しました。


調査方法

対象:6歳〜11歳のDCD児19名と同年生、性別の定型発達児19名

調査方法:視覚-触覚時間順序判断課題

※視覚-触覚時間順序判断課題では、視覚刺激(光)と触覚刺激(振動)のどちらに早く反応するのかを計測することができます。



結果

調査の結果、

◯DCD児=視覚と触覚が同時に刺激される→「視覚刺激が早かった」と回答
◯定型発達児=視覚と触覚が同時に刺激される→「触覚刺激が早かった」と回答

という結果となり、DCD児は明らかな「視覚依存傾向」を示しました。

また、視覚情報への依存傾向が強いと、微細運動スキルの低下に相関関係がありました。

微細運動には、手先からの触覚情報を感じ取ることが重要だと考えられているため、視覚情報に依存した結果、触覚からの情報がうまく処理できなかったことが原因だと考えられます。


Increased visual bias in children with developmental coordination disorder: Evidence from a visual-tactile temporal order judgment task

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0167945720306072?via%3Dihub

まとめ

この研究から、DCD児には、

◯視覚に依存する傾向がある
視覚への依存が強いと微細運動スキルが苦手になる

という結果を示しています。

一見、視覚に依存性が高いとデメリットな印象を受けますが、反対にメリットになる可能性も指摘されているため、今後の研究の課題となっています。

困り感の原因となっている背景要因を知ることは、その対策を考えることにもつながります。例えば、不器用な子に、

◯目を瞑って折り紙など工作をする
◯リトミックなど音声情報を主体の運動を行う

など、認知特性に合わせた療育活動が有効な可能性もあります。


現場の人間は研究の成果を積極的に活用して、日々の支援の質をあげていきましょう!

以上、参考になれば幸いです(^ ^)

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